山口新聞(11月19日朝刊)のリレーエッセーを寄稿させて頂きました。
私の思う仕事の原点
真に顧客を思うこと
宇部保険サービス社長 石丸直樹
保険代理店
いつかは親の会社を継ぐかもしれない。そんな風に漠然と考えつつもサラリーマンをしていた24歳の春、突然父からの手紙が届いた。「山口に帰って来ないか。自分がやっている保険代理店で働かないか」。大学の工学部を卒業し東京のゼネコンで橋梁基礎の設計をしていた自分にとっては、保険業は全く畑違いの分野。ちゅうちょがなかったわけではないが、親の会社を継ぐために私は山口に帰郷した。当初は営業先も話を聞いてくれる相手もなかなか見つからず、非常に苦労した。だが、ひたすらパソコンに向かう設計業務と違い、直接顧客に会ってヒアリングし、その中で顧客の不安要素やニーズを読み取って解決策を提案していくこの仕事が非常に新鮮で面白く感じたことを覚えている。
時が流れ私が経営者になって5年たつが、保険代理店を経営する上で、また私自身が保険の一営業マンとして大事にしているのは、「本当に自分に必要な保障を買う」という感覚を顧客に持ってもらうことだ。「保険は難しくてよく分からない」「担当者に任せているから」。時にそういったお声を頂戴する。もちろん、本当にその方のことを考えてくれる担当者がいて、しっかりとヒアリングした上で合ったものが提供されている場合はいいのだが、そうでない場合も少なくない。「不安をあおられて何となく保険に入る」などという不幸をなくしたい。私の仕事に対する思いの原点はそこにある。保険は決してお守り代わりに入るものではなく、「過不足なく必要な保障を買う」ものなのだから。そのためにはまず、顧客が何をリスクと考え何に不安を抱いているのか、リスクが現実のものとなったときに公的な保障がどこまであるのか、結果足りないものは何なのかを知ることが大事だ。そこがはっきりして初めてその先に「民間の保険で不安を解決する」という流れが存在するのだと思う。
FP相談室
弊社が6年前に始めた事業に「住まいのFP相談室」がある。住宅取得前に顧客のライフプランを作成し生涯を通じてのお金の流れをチェック、資金計画を立てる仕事だ。この事業にも私の譲れない思いがある。近年、多くの会社が無料でライフプラン作成を提供しているが、本当に顧客の一生の不安を解消できるサービスがどれほどあるだろうか。あくまで住宅受注のための「無料相談」であり、無理のあるライフプランになっていないだろうか。私の会社が大事にしているのは、顧客が本当にそのローンを組みつつ自分の思い描くライフプランを達成できるかであり、家が建てられるか、住宅ローンが組めるか、ではない。家は建てたら終わりではなく、むしろそれからが新しい人生のスタートなのだから、購入資金や建築資金の話だけでライフプランを語ることはできないのである。
保険代理店にせよFP相談室にせよ、私はこれまで「真に顧客を思う」ことだけはぶれずにやってきたつもりだ。「真に顧客を思う」とは何か。それはきっと難しいことではなく、「過不足なく無理のないプランを顧客に提供する」「真っ当なことを真っ当にする」、ただそれだけのことなのかもしれない。
いしまる・なおき
宇部市東岐波の保険代理店「宇部保険サービス」社長。熊本大学工学部卒業後、ゼネコンで耐震補強設計に従事。25歳で父親が経営していた保険代理店に入社し、ファイナンシャルプランナーとして活動する。住宅ローンに苦しむ人を減らしたいとの思いから、2012年に「住まいのFP相談室山口店」を立ち上げ、住宅取得前の資金計画や家計の見直しについてアドバイスをしている。37歳。